世の中にたくさんあるインタビュー同様に、最初の質問ではよく「Nagomi Visitをはじめたきっかけは?」と聞かれます。他の方のインタビュー記事を読むと、この質問に対しての答えは明朗快活で思わず「なるほど~!」と感心したりするポイント。(もちろんインタビュアーの方の編集力がすごいということもあります。) で、私もせっかく頂く機会なので、「こういうきっかけで、Nagomi Visitをはじめたんです!」とズバっとわかりやすく答えたいな~と思い、どうお話するべきかいろいろ考えてみたりするのですが、どうしても毎回、説明が長くなってしまいます^^;
というのも、実際のところ、Nagomi Visitはある日突然思いついたことではないだけに、コンセプトやアイディアの根っこにはこれまでの自分の経歴や考えてきたことなど、いろんな要素が絡み合って出来上がっています。
いえ、私の場合というよりアイディアってそういうもんですよね。でもズバっと表せるほどにはまだ整理しきれてなくて。
「きっかけ」と言っても要素をひとつひとつをお話しないとなかなか伝わらないんじゃないか、とか思ってしまい、それが結局長ったらしい説明になってしまったり、しかも話してる途中で自分でも冗長すぎることを自覚して、変に端折ってしまったりして。あまりうまくお話できてないなーと反省することが多いです。
というわけで、自分の頭の中の整理もかねて、その「要素」をブログに残しておくことにします。
2011年の9月に運営をはじめたときに、一番強く想っていたのは「日本に旅行でやってくる人たちに対して、エキサイティングなプログラムを提供したい。それも低価格で。」ということでした。なんでそう思っていたのかは、まさに私自身のそれまでの経験が元になっていて、まとめると4つの背景があります。
背景その1)「自分ごと」としてビジネスの仕組みを考えるのが好き。
これはもう、そういう趣味なんですとしか言いようがないのですが、アイディアを1人でブレストすることが好きです。「もしこういうサービスがあったら、自分だったら絶対に使う」とか思いつくと、サービス内容や価格、実現のためのオペレーション方法など細かーく細かーく、寝る間も惜しんで考え始めます。コンセプトや集客方法はもちろん、そのアイディアが何かを売るお店であれば立地も考えるし、人員計画(自分がやるのか、人を雇うのかとか)も。言ってみれば妄想ゲームだけど、すごく楽しい趣味なのです(笑)どのアイディアにも共通してるのは、自分がそのサービスを使いたいと思うかどうか。
当然、途中で「あ、こりゃダメだね」とうまくいかないことがイメージできた時点で熱は冷めるのですが、Nagomi Visitも、最初はこういう1人ブレストから始まったアイディアです。
直接的な経験としては、(彼の実家がある)デンマークに初めて行ったときに、彼の家族の家や友達のおうちで、ごはんをごちそうになりながらお話をしたことがヒントになっています。それまでヨーロッパに行ったことがなかった私にとっては、(彼氏の実家に初訪問ということを差し引いても)ものすごくエキサイティングなことでした。キッチンにある器具や食器、そして料理も、その食べ方も。いちいち自分の普段の生活とは違っていて、見るもの食べるもの全てエキサイティングでした。
そしてこれは、たまたま家族がいるからこそできたことですが、知り合いがいない限りなかなかできることじゃないよねと思ったのが、Nagomi Visitの妄想ゲームスタートの瞬間です。
ただ、そもそもなんで観光なのか、そして訪日旅行者向けなのか、という部分はさらに過去の経験が元になっています。
背景その2)観光の現場で実感した2つのこと
・目的がある旅は楽しい・個人旅行では手配できない価値がある
高校2年生の冬、17歳のときに立教の観光学部を受験することにしました。理由は単純で、経済学部とか法律学部とか一般的なのよりは、ちょっと変わった学部のほうが面白いと思ったから。
2000年に入学したときは他にほとんど存在しなかった観光学部も、この10年で今や乱立状態。03年から始まったビジットジャパンキャンペーン、観光立国基本法の制定や観光庁の設置、そしていろいろ右肩下がりなことが多い今の日本で、観光が数少ない「成長分野」と捉えられていることを考えると、17歳にしてはなかなか社会の需要を先取りした、ナイスチョイスだったんじゃないかと思ったりしています(笑)
とは言っても、私が「観光に関わってきた」と実感しているのは実は大学が主な理由ではなく、大学生活の4年間にスキューバダイビングのインストラクターとして観光客相手にバリ島で活動した経験と、国内のバスツアー添乗員として仕事をした経験によるものです。
バリ島でのお客様は日本人観光客が9割で、ハネムーンのカップルや卒業旅行の大学生などなど。時々オーストラリアやヨーロッパからのお客様もダイビングをご案内しました。オランダから1人旅で来ていた60歳女性に、ダイビング講習をしたこともありました。その他、ダイビングはなしでいわゆる観光地を巡るだけのお客様をご案内することもあったのですが、私がバリでの経験で感じていたのは、「ダイビングをするっていう目的を持って旅行に来てる人のほうが、単純に「何か面白いもの見たい(から有名観光地に行く)」という人よりも、何倍も楽しそうということ。
同時に大学の「観光行動論」という授業でも、旅行者の旅に対する成熟度合いが進むに従って、ただ見るだけの観光形態(有名観光地を回るタイプ)→目的を持った観光形態(○○をするとか、どこどこに泊まるとか)に変わっていくという話があったので、「そうか、これからは目的を持って旅をする人がどんどん増えるのね」と思っていました。
大学生特権の、長―い夏休みと春休みはバリ島でしたが、授業があるときはもちろん日本にいて、土日にはバスツアーの添乗員をしていて、日帰り、宿泊含めてトータル100回以上のツアーに添乗しました。自分の親と同じくらいか、それ以上の年代の、50+代おじさまおばさまが主なお客様でした。
1回の添乗で45人乗りバス満員のお客様相手に早朝6時から夜10時頃までずっと一緒にいて仕事をしたことは、ビジネススキルとしての「柔軟な対応力」を鍛えるかっこうの機会だったな~と今になって思います。当時は自分自身が楽しかったからやっていたことですが、それこそいろんなタイプの観光客がいて。
中には「これぞクレーマー」みたいな、朝いちからなぜか機嫌が悪くていちいち文句を
言ってくるおじさんや、高速の渋滞に巻き込まれているのに「子供がトイレ行きたい」的な無理難題を相談してくるお母さんもいたし。そもそも時給換算したら完全に割に合わない仕事だったしキツイお客さんの一言には溢れる涙を隠すためにバスの最前列で上を向いて涙を我慢したこともありました(笑)
でもいろんなタイプのお客さんがいるということに慣れて、何があっても笑顔で対応できる図太さを持ち合わせて仕事をする能力が身についたので、学生時代に経験できてよかったと思っています。
ちょっと観光から話がそれましたが^^;
この団体バスツアー。添乗員としての仕事は面白かったものの、自分が旅行する場合には何から何まで旅行会社にお任せの団体ツアーに参加するのは面白くないなと感じていました。ただ一方で、第三者が提供するサービスがあってはじめて旅行者が楽しめる事もある、と身をもって感じたことも事実です。例えば田舎の、絶対にHPとか持ってなさそうな農園で旬のフルーツ狩りをすることなんかは、やっぱり個人旅行では手配できないことだったりして。全部お任せはつまらない(と、私は思う)けど、個人で手配できないことを提供する価値ってあるよね、と思っていました。
というわけで、学生時代の4年間の経験から「旅行者にとって、目的のある旅は楽しい」ということと、団体旅行よりも個人旅行のほうが楽しいけど、個人で手配できないことを代わりにしてあげることには価値があるということがわかりました。これが机上の理論としての知識ではなくて、実際に汗水垂らして(あと涙もw)得た感覚だからこそ、今も仕事をする上での根っこになっていると思っています。
背景その3)インバウンド(訪日外国人市場)との関わり
上記の通り、観光の現場にどっぷり浸かっていた4年間だったので、卒業後一旦都内の企業に勤め始めてからも、例の妄想ゲーム(1人ブレスト)は観光に関わるビジネスアイディアが多かったです。また、上記2つの気づきから、「個人旅行者が目的のある旅をする中で、個人ではなかなか手配できないこと」に自ずと焦点が定まり、また自分が日本にいたことで「日本に来る旅行者にとって、何がエキサイティングな目的となり得るか」ということがアイディアのポイントになっていました。そしてもちろんその頃、VJCが始まり今後本格的に訪日外国人市場が盛り上がりそうだという外的環境があったことも確かです。そうは言っても最初にお話した通り「自分ごと」としてアイディアを組み立てるので、旅行中に自分が最もエキサイティングだったことは何か、というところから1人ブレストは始まります。
ほとんどは途中でボツるのですが、その中で最もいいセンまでいったアイディアは、「訪日旅行者が着物変身体験ができるお店(写真撮影付き)@浅草」。これも元々は、沖縄で民族衣装を着て写真を撮る機会があり、自分の中ではそれまでの旅行体験の中で1位2位を争うほど楽しかったことがヒントになっています。2006年の6月に考えていたことでした。このときは、実際に同じようなサービスがあるかどうか、競合調査もしたし(当時はなかった)浅草でやりたいと決めて、実際にどこでお店ができるのかを探るために、浅草を歩き回ったりしました。
このアイディアはもう完全にうまくいくと確信していたのですが、どうしても当時の1人ブレストで行き詰ることがありました。それは"どうやって集客するのか」ということ。訪日外国人をターゲットにしたビジネスの仕組みをまったく知らなかったので、日本を旅行する外国人も「地球の歩き方」の英語版とか参考にしてるんだろう、それに情報が載れば集客できるかな?どうかな??程度のイメージしか浮かびませんでした。
何はともあれ、その「英語版 地球の歩き方」がなんなのかを調べるためにYahooに打ち込んだのが「japan guide」というキーワード。
そこで初めてジャパンガイドの存在を知り、その時点で既に相当量の日本観光地情報が発信されていて圧倒されました。そしてすぐに、日本の企業が総広告代理店をしていることがわかり、これは訪日旅行者市場について知るための最短近道だと感じ、とりあえず着物変身ビジネスは保留にしてジャパンガイドを発見した翌週にはその会社に履歴書を送っていました。当時、別に転職活動をしていたわけでもなかったのに、すぐに行動に移せた自分には感謝してます。(変な言い方ですが(^^;;
そしてさらに、その企業もジャパンガイド担当者を募集していなかったにも関わらず、迎え入れてくれたことは本当に感謝しています。
背景その4)ジャパンガイドを通した経験とわかったこと
そんなわけで、2006年の秋からジャパンガイドの担当者として仕事を始め、広告営業が私のミッションになりました。インターネットも広告についても全くの素人だった上、数年間は担当者1人の状態だったので、言葉通りがむしゃらに仕事をしました。媒体資料の作成を試行錯誤し、新しい広告枠を開発し、事業に必要な大小様々な仕組み作りを任せてもらったことは本当にいい経験です。特に07年頃から、国内でも本格的にインバウンド熱が高まり、大手の旅行会社や航空会社、国としてのプロモーションに至るまで、いろいろなインバウンド向けPRの企画提案をし、訪日旅行者をどう集客するのかという点でこれ以上ないほどの経験を繰り返しました。
そのなかには、もちろん個人旅行者が楽しむためのアクティビティもたくさんあり、ついに大手旅行会社さんから着物変身体験も打ち出されました。この時、"キーっ!私だって考えてたのにっ!"っていう残念な口先だけの人になりかけたのはすぐに想像していただけると思います。(笑)
だけど、こういう個人の旅行者が楽しめる系の体験プログラム、実はあまりうまくいってないことも見てとれました。体験自体はエキサイティングだけど、あまり売れてるように思えなかったです。
なぜか、という理由は旅行者側から見るとけっこう明確で、"料金が高いから"だと感じました。大手旅行会社の商品なので、かかるコストを考えれば当然の料金設定です。それでも2-3時間のプログラムで10,000円以上するのは、一般の個人旅行者にとっては高すぎるんじゃないか、というのが私の率直な感想でした。
そこから出た自分なりの結論は、大きな組織では旅行者にとってエキサイティングな価値を提供できても、それを低価格で打ち出すのは難しいということ。逆に、個人や小さな組織であればコストを圧縮できるので低価格でも実現できるんじゃないか、ということでした。
この4つの背景があり、2011年のはじめに、そろそろ初心に戻って本当にやりたいことをしようと思ったときに始めた1人ブレストでは、"個人旅行者が目的のある旅をする中で、個人ではなかなか手配できないことを、低価格で提供する"ということにポイントが絞られました。そこに自分にとってエキサイティングだったデンマークでの経験が加わって、今のNagomi Visitのコンセプトを思いつき、行動に移した、ということです。
Nagomi Visitを始めたきっかけを聞かれたら、答えたいのはこういうこと。
とりあえず整理できたので、これからはこの話を1分でまとめられるように訓練したいと思います。(笑)